<Gingerbread ジンジャーブレッド>
ジンジャーブレッドだけで1冊の本が書けるといわれるほど恐ろしく種類の多いイギリスのジンジャーブレッド。柔らかいスポンジ状のものから、固いビスケットのようなものまで、その形状はさまざま。ですが、しょうがの香りの効いた温かみのある味わいはどれも共通、温かいミルクティーとの相性も最高です。もともとアジア原産と言われているしょうが。古代ギリシャやローマでも古くから薬として珍重されており、スパイス貿易でも重要な位置を占めてきたこのジンジャーがヨーロッパ中に一気に広がったのは十字軍遠征後のこと。やはり最初は消化を助けたり、炎症を抑えたりと、その薬効を期待しての使用が主でしたが、次第に調理やお菓子作りにも頻繁に使われるようになります。記録に残っている最も古いケーキのひとつもジンジャーブレッドと言われています。これは温めた蜂蜜にこしょうやシナモンなどのスパイスを加え、そこにパン粉を加えてひとかたまりにしたものを冷まし、カットするというもの。当時としては高価なものの塊のようなそれは、つげの葉やクローブなどで飾られ贈り物にもされたそう。時には木の型で人や動物を模ったり、サフランなどでの色づけや金箔を貼ることもあったとか。今のジンジャーブレッドとは大分様相は異なりますが、とにかく14世紀にはジンジャーブレッドがすでに存在していたわけです。その後需要が高まると、ジャマイカやハイチなど西インド諸島に植物としてのしょうがが持ち込まれ栽培が始まります。そうしてジンジャーは高価ながらも、お祭りや特別な日には何とか庶民にも手の届く範囲のスパイスとなり、祝祭日やフェア(お祭り)と結びつき、ある地方ではオーツや小麦粉を加え、ある地方ではトリークルやドライフルーツを加えてと、それぞれに特徴のあるジンジャーブレッドが各地で生まれていきます。
さてこれまでも、ヨークシャーのパーキン、スコットランドのパーリー、コーンウォールのコーニッシュフェアリング、湖水地方のグラスミアジンジャーブレッドなどなどをこのおかし百科でもとり上げてきましたが、これらは全て地方のもの。全国区でジンジャーブレッドと言って多くの人が頭に浮かべるのはふたつ。ブラックトリークルをたっぷり使うしっとりスポンジケーキタイプのジンジャーブレッドと日本でもおなじみ男の子の形をしたビスケットタイプの「ジンジャーブレッドマン」。前者のケーキタイプのジンジャーブレッドが登場したのは16世紀以降。卵やバターが手に入るようになり、パン粉が小麦粉に、蜂蜜がトリークル(糖蜜)にとって代わり、軽いジンジャーブレッドが生まれます。軽いと言っても、トリークルたっぷりのしっとりどっしりしたそれは今の私たちからすれば、なかなか重量感のある、こっくりとした味わい。「Moist treacle gingerbread」とも呼ばれるこのジンジャーブレッドは焼きたてより、数日置いたほうが味が馴染み、美味しさUP。昔ながらのティールームに行くと、アイシングとシロップ漬けのジンジャーで飾られた真っ黒なそのケーキがよく置いてあります。
もう一方のジンジャーブレッドマン、こちらの誕生には諸説あるものの、よく聞くのは16世紀後半、エリザベス1世が要人をもてなすために、その人の姿に似せたジンジャーブレッドを作らせていた、のが始まりというもの。なかなか女性らしい洒落の利いたおもてなしですよね。とは言え、きっとひげの生えた偉そうなおじさま型であったであろうそのジンジャーブレッドが今の可愛らしい男の子の姿になったのはいつのことか。。。ちょっと話しは飛びますが、同じくジンジャーブレッドで有名なドイツでヘキセンハウス(ジンジャーブレッドハウス)が一気に広まったのはグリム兄弟が「ヘンゼルとグレーテル」を出版した1812年以降のことだとか。ヘキセンハウスしかり、もっと以前から存在はしていたでしょうが、男の子型のジンジャーブレッドのメジャーデビューのきっかけを作ったのは、1875年St. Nicolas Magazine社がジンジャーブレッドの男の子が主役の物語、「The Gingerbread man(The Gingerbread Boy)」を出版したのがきっかけだっただろうと言われています。
~ある日お腹を空かせたおじいさんとおばあさん、ティータイムにしようと、男の子型のジンジャーブレッドを焼き始めます。ところがオーブンを開けた途端、ジンジャーブレッドはお外にすたこらさっさ逃げてしまいます。’Run, run as fast as you can. You can’t catch me, I’m the gingerbread man’ と笑いながら、豚や牛などの動物に追いかけられながらも逃げまわるジンジャーブレッド君。その行く手には川が、、、さぁどうする~というお話し。
ブラウンシュガーとトリークルの入ったジンジャーブレッドマン。イギリスでは1年中食べられていますが、特に人気なのはクリスマスシーズン。フェスティブムードを盛り上げるスパイスの香りと、ツリーのオーナメントにしても可愛らしいその姿は子供たちの人気者。悪賢いきつねではなく、可愛い子供たちのお口の中パクリ☆今日も飲み込まれていきます(^^)